司馬懿は遼東で独立を図った公孫淵の討伐を命じられ、出発する。あれやこれやあったけど、何だかんだいって勝利を収めた司馬懿は、都・洛陽への帰途に就くが、何か嫌な予感にとらわれていた・・・
初、帝至襄平、夢天子枕其膝、曰「視吾面」。俛視有異於常、心悪之。
帰途を行く司馬懿を捉えて離さないのは、遼東に着いたばかりのころに見たあの夢であった。夢、そうあれは夢であった。夢とは、潜在的な欲求なのだろうか。だからこそ、圧倒的なリアリティをもっているように感じられるのだろうか。
その夢は、晴れた昼下がりの草原を舞台としていた。司馬懿の膝は、皇帝の枕と化していた。そう、あの聡明をもって知られる皇帝・曹叡である。
「朕のほうを向け」
天子が言った。いま、司馬懿は首を180度後ろに回して背後の草原を眺めている。顔色を、表情を、察せられてはまずい。司馬懿に可能な、ささやかな抵抗であった。天子の言葉に対しては、聞こえぬふりを通した。
しかし、この皇帝は長けている。勝負どころの見極めが抜群に優れている。押せるところではどこまでも押してくる。相手の心理の推察が、それだけうまいのだ。
「朕のほうを向け」
「なりませぬ・・・」とすぐ言ってはみたものの、そこに意志が込められているかと言うと、自らもわからぬ。視線が後頭部に突き刺さっている。無言の時間が、司馬懿の抵抗を降した。恐る恐る、視線を下のほうに向けたまま、顔の方向を戻した。そこから先は・・・
夢とは、決して他者に理解されてはならない私だけのものである。
―続―
※作者急病のため、次回以降の連載は未定となります。長年の御愛読、ありがとうございました。
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○この作品はフィクションです。くれぐれも事実と受け止めないように。
○どこまでお前は創作を加えたのかって?『晋書』宣帝紀・景初二年の条に元ネタ記事(上掲)があるので、ご自身で確かめるとよろしい。
○いちおう言っておくと、男同士の膝枕と言うのはたぶん、親密度を表現するレトリックなんじゃなかろうか。え?その親密度がどれくらい行くとそうなるのかって?いやわからんけど、無二の友みたいな感じなんじゃないの?え、そのような間柄を「友」と表現するのは適当なのかって?もうしらねーよちくしょう
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